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山形地方裁判所 平成6年(ワ)299号 判決 1997年11月05日

主文

一  第一事件被告丙川通信機株式会社、第一事件ないし第三事件被告丁原松夫及び同丁原花子は、原告に対し、連帯して金八〇八万七三九七円及び内金二〇五万円に対する平成五年四月一四日から、内金六〇〇万円に対する同年四月二七日から、各支払済みまで年一五パーセントの割合による金員を支払え。

二  第二事件被告丁原竹夫、第一事件ないし第三事件被告丁原松夫及び同丁原花子は、原告に対し、連帯して金四九七万〇五九八円及び内金四四三万三二六三円に対する平成六年九月二七日から支払済みまで年一五パーセントの割合による金員を支払え。

三  第一事件ないし第三事件被告丁原松夫及び同丁原花子は、原告に対し、連帯して金一三五万円及びこれに対する平成五年四月二日から支払済みまで年一五パーセントの割合による金員を支払え。

四  原告の第一事件にかかるその余の請求を棄却する。

五  訴訟費用は、これを一七分し、その一六を被告らの負担とし、その余を原告の負担とする。

六  この判決は、第一項ないし第三項に限り、仮に執行することができる。

理由

第一  第一事件について

一  本件の背景事情

《証拠略》によれば、次の事実が認められ、これを左右するに足りる証拠はない。

(被告会社の経営、資産状況等)

1  被告会社は、昭和六〇年一〇月に設立された通信機器、事務機器等の販売、賃貸業等を営む株式会社であり、被告松夫は、昭和六一年一〇月代表取締役に就任し、被告会社の経営に当たっていた。被告会社は、昭和六三年六月から原告と預金取引を開始し、平成元年一〇月から融資取引を開始し、平成三年頃には、原告から約一〇〇〇万円の融資を受けている状態であった。

2  被告会社は、平成四年四月頃から、原告に対する返済が停滞気味となり、これと前後して、徐々に資金繰りの手段としていわゆる融通手形等を振り出して貸金業者等から融資を受けて資金を調達するようになり、遅くとも平成五年二月頃には融通手形等の振出しが頻繁になっていた。

3  被告会社の平成四年九月三〇日の決算期の資産状況は、資本金三〇〇万円、資産約六八三万円、負債約二一八九万円(買掛金約六三三万円、長期借入金一三四一万円)、欠損金約一八〇六万円というものであり、また平成三年一〇月一日から平成四年九月三〇日までの営業状況は、売上合計約二二五四万円、売上総利益一四五五万円、営業利益約九六万円というものであった。

4  被告会社の平成四年一二月から平成五年二月までの各月の手形、小切手の決済状況は、平成四年一二月が二七〇万四五一一円、平成五年一月が二七三万八七一三円、同年二月が三五八万〇五四三円というものであった。

5  佐藤は、平成五年一月一八日、被告会社において手形、小切手決済資金が不足した際、被告会社に対する好意から、個人的資金を拠出して被告会社の当座預金口座に入金し、決済資金三三万五七〇〇円を立替払いした。同様に、同年二月一七日には四四万円を立替払いした。

(被告会社のミノルタ事務機販売、リトルスターとの取引)

6  被告会社は、平成四年初め頃から、宮城県古川市に本店を置き多数のチェーン店を有するコンビニエンスストアのリトルスターとの間で、コピー機の販売ないしリース契約締結に向けて交渉を開始した。

7  他方、被告会社は、平成四年一〇月、ミノルタ事務機販売との間で、特約店基本契約を締結するとともに、平成四年一〇月一日から平成五年三月一〇日までの間に、同社からまとまった数量のコピー機を比較的安価で仕入れることができる旨の覚書を取り交わし、これにより、被告会社は、コピー機をまとめ買いであれば一台当たり約二〇万円程度で購入することができることになった。

8  被告会社は、リトルスターとの間の交渉で、コピー機を試験的に二台設置して様子をみた後、平成五年二月初め頃には、同社にコピー機二〇台を納入する旨の大筋の合意ができたが、三月初めの時点で、いまだ売却方式にするかリース方式にするかの結論はでていなかった。売却するとすれば、一台当たり約三七万円で売却する予定であり、リース契約にすれば継続的にメンテナンス収入等が得られる予定であった。

9  なお、後記認定のとおり被告会社が倒産した後、ミノルタ事務機販売が被告会社のリトルスターとの間の商談を引き継ぎ、同年六月一〇日には売買取引に関する基本的合意を締結した。

(被告会社の平成五年三月の資金繰り状況)

10  被告会社は、原告に対し、平成五年二月下旬頃、同年三月、四月の資金計画予定表を提出した。これによると、被告会社の同年三月の入金予定は二三〇万円であり、そのうち一五〇万円についてはコピー機三台の売上によって調達することになっており、他方、支払予定は約三一一万円であった。また、被告会社の同年四月の入金予定は一〇三〇万円、出金予定は約三二七万円であり、右入金のうち、八二〇万円は、コピー機二三台の売上によって調達することになっていた。

11  ところが、被告会社の平成五年三月の現実の手形、小切手決済のための出金状況は、一日六九万四〇一一円、二日一三二万二五八四円、九日二五万円、一一日二八万円、一二日一〇〇万円、一五日七〇万円、一八日六万三一〇九円、二二日一一五万三八〇五円、二五日三六万三〇〇〇円、二六日三〇万円、三〇日八六万五一五九円、三一日二五万円、合計七二四万一六六八円というものであり、右資金計画予定表より著しく増大したものとなった。これに対して、原告から借り入れて普通預金とされていたうちから合計二八六万円が引き落とされ、決済資金に当てられた。佐藤は、前同様に、同年三月一日に三〇万円、三月三〇日に八七万円、三月三一日に三二万一〇〇〇円を被告会社の決済資金に当てて立替払いした。また、被告会社は、決済資金を捻出するため、その被告松夫の母で、被告会社の取締役に就任している被告花子から名義を借りて、平成五年三月二日、原告から、手形貸付の方法で、返済期限を四月一日として一三五万円を借り受け、決済資金等に当てた。

(本件六〇〇万円貸付の経過)

12  被告会社は、前記のとおり、ミノルタ事務機販売との間で、代金を支払ってコピー機を買い受けるばかりの状態になっており、リトルスターとの商談も進んでいたので、右コピー機を売却することができれば、前記資金計画予定表のとおり、平成五年四月には資金繰りが好転すると考え、ミノルタ事務機販売からコピー機を購入するにあたっての代金を捻出するために、同年二月下旬頃、原告に対し、右コピー機の購入代金と諸経費と併せて六〇〇万円の融資を申し込んだ。

13  原告は、三月一日、宮城県信用保証協会の信用保証によりミノルタ事務機販売からのコピー機械の仕入れ資金と長期運転資金を使途にするとの約束で被告会社に融資することとして、右保証協会に対して信用保証委託の申込手続をなし、同保証協会から信用保証の承諾を得た。

14  原告は、三月一二日、被告会社に対する貸付を実施し、原告の被告会社名義普通預金口座に五九七万七六三五円(六〇〇万円から手数料を差し引いたもの)を入金した。

15  被告会社は、同日、五一九万円の出金伝票を作成して、原告に提出し、同額の払戻しを求めたところ、原告は、右預金のうちから五一九万円を出金したものの、そのうち二七五万円をいわゆる保護預りとして原告において別途保管し、一〇〇万円を同日決済の手形資金の決済資金として被告会社の当座預金口座に入金し、現金四四万円を被告に交付した。

16  原告は、三月一五日、被告会社の前記預金の中から七〇万円を引き落として、被告会社の当座預金口座に入金し、同日の手形決済資金に充てた。

17  原告は、三月二二日、被告会社の前記預金の中から一一六万円を引き落として、被告会社の当座預金口座に入金し、同日の手形決済資金に充てた。

18  原告は、同月二二日、保護預りの二七五万円のうちから一五九万円を、いまだ返済期限の到来していない被告会社の原告に対する貸金債務二七五万円の一部弁済に充当した。しかし、これを知った被告松夫の強い抗議を受けて、同月二四日、右弁済を取り消し、一五九万円を被告会社に返還した。

19  その他、原告は、時期不明であるが、被告会社の預金ないし保護預りから約一〇〇万円を出金して佐藤の平成五年一月一八日から同年三月一日までの立替分の弁済に充当した。

(被告会社の平成五年四月の資金繰り状況及び倒産)

20  被告会社の四月二一日までの手形、小切手決済による出金状況は、一日二五万円、九日二五万円、一二日五二万六七四八円、一九日二五万円であり、同月二〇日には一四万円の約束手形について資金繰りができず一回目の不渡事故を起こし、同月二一日には四通の約束手形二七五万三八五〇円について資金繰りができず二回目の不渡事故を起こし、同月二六日銀行取引停止の処分を受けて倒産した。

二  請求の原因1ないし6の事実は当事者間に争いがない。

三  相殺の主張の当否について検討する。

1  前記一14認定のとおり、原告は、平成五年三月一二日、被告会社に対して金六〇〇万円を貸し付け、これから手数料を差し引いた五九七万七六三五円を原告の被告会社名義普通預金口座に入金したのであるから、同日付けで、原告と被告会社間に普通預金契約が成立したものと認められ、被告会社は、原告に対し、右金額相当の普通預金債権を取得したものである。そうすると、特段の合意のない限り、原告は、被告会社の払戻請求があれば直ちにこれに応じて預金を返還しなければならないことになる。

2  原告は、被告松夫において、被告会社の代表者として、同被告の経営状態が極めて逼迫している状態にあることを認識しており、本件貸金六〇〇万円は、融資申込みの当初から、その一部を平成五年三月、四月分の手形決済資金に充てることを目的としていたものである旨主張する。

(一) 証人佐藤は、右主張に沿って、本件六〇〇万円の貸付が、被告会社からの申出によるものであり、当初から被告会社の手形、小切手の決済、特に平成五年一月二九日に貸し付けた二七五万円の返済に当てる目的のための貸付であって、信用保証委託の申込書に「使途をミノルタ事務機販売からのコピー機械の仕入れ資金と長期運転資金として被告会社に融資する」旨記載して宮城県信用保証協会へ信用保証の委託を申し込んだのは、被告会社の旧債務の弁済に当てるという名目では同保証協会の保証が得られないためであり、同保証協会を偽ったものであった、同年三月一二日の二七五万円の保護預りは被告松夫の依頼によるものであった旨証言している。

(二) しかし、被告会社が、ミノルタ事務機販売からコピー機を購入する代金を捻出することを主目的として六〇〇万円の融資を申し込んだものであることは、前記認定のミノルタ事務機販売との間の取引の経緯、リトルスターとの間の交渉経過、被告会社が原告に提出した平成五年三月、四月の資金計画予定表(コピー機がリトルスターに合計二五台も売却できることを前提とした資金計画である。)から明らかである。また、平成五年三月一日付け被告会社作成の借入申込書からも右事実が窺われる。

他方、佐藤は、同年三月一日の時点では、同月の手形、小切手決済の額が急増することを予想することができなかったはずであり、被告会社からコピー機が順調に売却できることを前提とした資金計画予定表を提出されただけであるから、ミノルタ事務機販売、リトルスターとの取引が順調にいけば資金繰りが好転すると考えるのが自然であり、貸付金を旧債務の弁済や決済資金に当て、ミノルタ事務機販売、リトルスターとの取引を阻害するような合意をするとは考えにくい。

さらに、同年一月二九日の貸付金二七五万円の返済期限は同年四月一三日であって、いまだ期限が到来しておらず、被告会社において、右貸金債務二七五万円について一か月も前に原告の保護預りとして実質的に期限の利益を放棄すべき理由はなかったはずであり、被告松夫がこのような不自然な預金の取扱いに同意を与えるとは考えにくい。

以上によれば、証人佐藤の前記証言部分はにわかに信用することができない。その他、原告の右主張を認定するに足りる証拠はない。

3  被告らの主張1(二)の事実、すなわち、被告会社が、原告に対し、右預金の払戻しを請求したが、原告が、平成五年三月一二日に一四四万円の払戻し(一〇〇万円を被告会社の当座預金口座に振り込み、四四万円を交付した。)、同月二四日に一五九万円の払戻しに応じたのみで、その余の払戻しに応じない事実は、当事者間に争いがない。

4  以上を総合すると、被告会社は、右コピー機を売却することができれば、前記資金計画予定表のとおり、平成五年四月には資金繰りが好転すると考え、ミノルタ事務機販売からコピー機を購入するにあたっての代金を捻出するために、原告に対し、右コピー機の購入代金と諸経費と併せて六〇〇万円の融資を申し込み、原告は、これを信用して、宮城県信用保証協会の信用保証によりミノルタ事務機販売からのコピー機械の仕入れ資金と長期運転資金を使途にするとの約束で被告会社に六〇〇万円を融資することにした、しかし、平成五年三月一二日までに手形、小切手決済のための出金状況が約三五〇万円になっていることが判明するや、原告は、三月一二日被告会社の普通預金口座に五九七万七六三五円を入金した後、被告会社の払戻しに応じず、右口座から五一九万円を引き落として、そのうち二七五万円を保護預りとして原告において別途保管し、一〇〇万円を同日決済の手形資金の決済資金として被告会社の当座預金口座に入金し、現金四四万円を被告に交付し、その後も、被告会社の委託がないのに、被告会社の決済資金に充当したり、佐藤の立替分の弁済に充当したりしたと認めるのが相当である。

原告は、預金の受託者として、被告会社の預金につき善良なる管理者の注意義務をもって管理すべき義務があり、被告会社からの委託なしに、預金を引き下ろして被告会社の債務弁済に充当することはできないものと解すべきである。

ところが、原告は、右のとおり、被告会社の委託がないのに、勝手に被告会社の債務弁済に当てて、被告会社の預金債権を減少させたのであるから、右注意義務に違反しているものと認められる。

5  また、原告は、平成五年二月までの被告会社の経営状態からすれば、倒産の可能性も少なからずあり、被告会社のいわゆるメーンバンクとして、被告会社との融資取引への対応につき微妙な判断時期にあったことは明らかであるが、このような時期において、被告会社の経営危機を察知するや、原告の担当者である板垣及び佐藤は、返済期限が未到来の債権に相当する金額を被告会社の普通預金口座の中から引き落とし、保護預りの名目で返済資金として別途管理し、さらに、期限到来前に弁済充当し、被告会社から何の委託もないのに手形、小切手決済につき被告会社の普通預金口座から金員を引き落としたのであって、信用を基調とする金融機関の営業活動として許容される範囲を著しく逸脱しているものといわざるをえず、不法行為を構成するものと解される。ところで、原告の担当者である板垣及び佐藤は、原告の業務の一環として右違法行為を行ったものであるから、原告は、使用者責任を負わなければならない。

6  原告は、本件貸金六〇〇万円の中から一八五万三八〇五円を、平成五年三月一五日の金七〇万円の小切手及び同月二二日の金一一五万三八〇五円の約束手形の決済に回したが、被告会社に決済資金がなかったことによるやむを得ない措置であった旨主張するが、被告会社に債務があって支払期限が到来しているとしても、これをどのような方法で弁済するかは被告会社自身の決すべきことであり、被告会社の方針は本件貸付金をコピー機購入代金等に当てることを優先しようとしていたのであるから、これに反した預金の操作をしてはならないことは明らかであり、右行為の違法性が阻却されるものではない。

また、原告は、佐藤は、当初は資金繰りがつかない被告松夫の懇請により、その後は被告会社の倒産を防ぐため自発的に、平成五年一月一八日から同年三月一日までに一〇七万五七〇〇円を立て替えて被告会社の手形決済資金の不足を補っていたから、本件貸金六〇〇万円のうちから右立替金一〇七万五七〇〇円の返済に充てた旨主張するが、右同様、行為の違法性が阻却されるものではない。

7  被告会社は、原告の債務不履行ないし不法行為によって、五九七万七六三五円の預金のうち払戻しを受けた二〇三万円、三月一二日の手形決済資金一〇〇万円を除く二九四万七六三五円について返済を受けることができなくなった。他方、右金員は、被告会社の別途債務に充当され、被告会社として、その分の債務を免れているから、損害は生じていないことになる。

8  被告らは、原告の債務不履行ないし不法行為がなかったら、リトルスターとの間でリース契約が成立していたとして、得べかりし利益につき損害賠償請求の主張をする。しかし、前記認定のとおり、被告会社の経営は危機に瀕しており、被告会社の起死回生の方策であるミノルタ事務機販売からのコピー機の仕入れ、リトルスターへの販売についても、平成五年三月の時点でいまだ成立に至っておらず、遅かれ早かれ倒産は避けられなかったものというべきであり、このような状況においては、直ちに、原告の債務不履行ないし不法行為がなかったらリトルスターとの間でリース契約が成立していたと認めるに足りない。その余の点につき判断するまでもなく被告らの右主張は理由がない。

9  前記認定のとおり、被告松夫は、被告会社の危機的な状況下において、起死回生の方策としてミノルタ事務機販売からのコピー機の仕入れ、リトルスターへの販売の計画を進めていたところ、原告の行為によって、営業ないし経営を妨害され、被告松夫が希望していた倒産回避の方策の遂行が困難となり、いわば不本意な形での倒産となったのであり、被告松夫は、少なからず精神的苦痛を被ったものというべきである。本件記録に現われた諸般の事情を勘案すると、原告は、被告松夫に対し、七〇万円の支払いをもって慰謝すべき義務を負うものと解するのが相当である。

被告らのその余の損害の主張は、これを認めるに足りない。

10  被告松夫が平成七年一月二六日の本件口頭弁論期日において右損害賠償請求権をもって原告の貸金債権と対当額において相殺する旨の意思表示をしたことは、本件記録により明らかである。

四  そうすると、原告は、被告らに対し、<1>貸金元金二七五万円及びこれに対する返済期日の翌日である同年四月一四日から支払済みまで約定利率年一五パーセント(年三六五日の日割計算)の割合による遅延損害金の支払い、<2>貸金元金六〇〇万円、これに対する未払利息金三万七三九七円(利息金最終支払日の翌日である平成五年三月二三日から期限の利益を喪失した同年四月二六日まで(三五日間)約定利率年六・五パーセント(年三六五日の日割計算)の割合による未払利息)及び期限の利益喪失日の翌日である同年四月二七日から支払済みまで約定利率年一五パーセント(年三六五日の日割計算)の割合による遅延損害金の支払請求権を有するが、他方、被告松夫は、原告に対し、前記七〇万円の慰謝料請求権を有し、同請求権は、被告会社が原告から払戻しを受けることができなかった平成五年三月一二日において相殺適状となったものと認められるので、平成五年三月一二日において返済期限が到来している二七五万円の貸金債権のうち七〇万円の部分について債務を免れることになるものと解される。

五  なお、被告らの信義則違反等の主張は、これを採用しない。

第二  第二事件について

一  原告、被告竹夫間で請求の原因1のとおりの金銭消費貸借契約に関する合意をしたことは、当事者間に争いがなく、《証拠略》によれば、請求の原因1のその余の事実を認めることができる。

被告らは、被告竹夫が金員を受領していない旨主張するが、《証拠略》によれば、被告会社は、同被告の資金繰りのために、代表者である被告松夫の弟である被告竹夫が、被告松夫のために被告会社に資金援助をすることにし、原告から四五〇万円を借り受け、これを被告会社の資金繰りに使用させたことが認められる。したがって、現実に金員を受領して経済的利益を享受したのは被告会社であり、被告竹夫が金員を受領していないからといって、本件貸付の成否が左右されることはなく、被告らの右主張は失当である。

二  《証拠略》によれば、被告松夫及び被告花子において、被告竹夫の原告に対する債務について連帯保証したことが認められる。

三  《証拠略》によれば、請求の原因3及び4の事実が認められる。

四  被告らは、第一事件と同様に相殺の主張をするが、本件において自働債権は存在しないから、被告らの右主張は理由がない。

五  そうすると、原告は、被告らに対し、右貸金残元金四四三万三二六三円及びこれに対する利息金最終支払日の翌日である平成五年一月三日から期限の利益を喪失した平成六年九月二六日まで(一年二六七日)約定利率年七パーセント(年三六五日の日割計算)の割合による未払利息金五三万七三三五円並びに右残元金に対する平成六年九月二七日から支払済みまで年一五パーセントの割合による遅延損害金の支払いを求めることができる。

第三  第三事件について

一  請求の原因1ないし3の事実は、当事者間に争いがない。

二  被告らは、第一事件と同様に相殺の主張をするが、本件において自働債権は存在しないから、被告らの右主張は理由がない。

三  そうすると、原告は、被告らに対し、右貸金元金一三五万円及びこれに対する弁済期日の翌日である平成五年四月二日から支払済みに至るまで約定利率年一五パーセント(年三六五日の日割計算)の割合による遅延損害金の支払いを求めることができる。

第四  結論

以上によれば、原告の第一事件にかかる請求は、被告会社、被告松夫及び同花子に対し、連帯して貸金残額八〇八万七三九七円及び内金二〇五万円に対する平成五年四月一四日から、内金六〇〇万円に対する同年四月二七日から、各支払済みまで約定の年一五パーセントの割合による遅延損害金の支払いを求める限度で理由があるからこれを認容し、その余は理由がないからこれを棄却し、原告の第二事件、第三事件にかかる請求は、いずれも理由があるからこれを認容することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条本文、九三条一項本文を、仮執行の宣言につき同法一九六条一項をそれぞれ適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 宍戸 充)

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